保育士、生きろ。

~低賃金・重労働。保育士問題のリアルを追う最新レポート~

過酷と言われる保育士の業務。多忙さと引き換えに失ってしまうものは

「いつも忙しいでしょう?」というリアクション。

それは保育士をしていることを話したときに多く見られるはずです。

 

保育士不足が社会問題として取り上げられることも多く、多忙=保育士という先入観は、世間に広く浸透しているのではないでしょうか。

 

とはいえ、業務内容が想像しにくい保育士の仕事では、一体なにが多忙の原因となっているのか外部に見えづらいという問題があります。

「子どもと遊んでいるだけでお給料がもらえる」という意見もあるのは、このことが大きいかなと思っています。

 

そのため今回は、

  • 保育士は実際にどんな仕事をしているのか?
  • なぜ「過酷」と言われるような状況が生まれるのか?

ということをご紹介します。

 

現場しかわからない保育士の過酷な勤務実態とは

朝6時に始まり、夜9時まで仕事

一般的な保育園では、朝7時から夜8時まで子どもを預かる時間にしているのではないでしょうか。つまり、その時間内は保育園が開園しており、保育士が業務をする時間ということになります。

 

子どもたちを安全にあずかるためには、日々の点検や掃除などがとても大事ですので、預かり時間の前後にはしっかり時間をとって準備・後片付けをする必要があります。

そのため、実際に保育士が保育園にいなければならない時間は、朝6時〜夜9時となります。

 

もちろん、8時間労働としてシフトが定められていることが多いですが、実態として8時間だけで仕事が片付くことはありません。

 

当日の活動への準備が終わっていなければ、普通番(8時出勤)であっても、7時から早出残業をして準備に当たることは珍しくありません。

定時後には、残った書類仕事をすることが多く、制作物をつくることもあります。次の日の準備といっても、クラス全員分の工作のアイディアを考え、ものを準備するのにはとても時間がかかります。

 

夜中に煌々と電気がついている時間は、保育士がずっと働きっぱなしになっていることを意味しています。いうまでもなく、保育士は多忙です。

 

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複数の子どもを一人で見る

ベビーシッターのようにマンツーマンで子どもを見る仕事とは異なり、保育士は常に多くの子どもたちを見ることを求められています。

元気いっぱいの子どもたちを安全にあずかるというのは、知識も体力も必要なことです。1箇所で喧嘩がはじまったと思えば、別の場所で転んで泣いている子がいて、その隣では体調が悪くてくずっている子がいる・・・という状況も日常茶飯事です。

 

平穏なのは午睡の時間と思われることもありますが、なかなか寝付けない子どもの対応をしたり、午睡中に体調を崩す子どもが出たらその連絡に追われたりしている間に、15時を回り、おやつの時間が始まってしまうこともあるのではないでしょうか。

 

さらに、クラスによってはおむつを替えたり、調乳をしたりすることは、休む間もなく行っていきます。1分たりとも気を休める時間がないのも、保育士の責任感の重さを表しています。

 

休日でも休めないくらい多忙

待ちに待った週末。月曜から金曜までしっかりと働いた分、自分にご褒美をあげたいところですが、家に仕事を持ち帰らざるを得ない保育士は意外に多いのではないでしょうか。

週案の提出が次の月曜日に控えていたり、月末であれば月案の提出が控えていたり、その日その日の対応に追われがちな平日には取り組めない仕事を、休みの日にまとめて片づけています。

 

気分転換に旅行に行くときでさえ、新幹線にノートパソコンを持ち込んで、指導案の作成に追われる保育士の姿も見られます。

 

行事前は、終電も覚悟する

行事前、それは保育士がもっとも仕事に追われる時期です。

入園式にはじまり、運動会や生活発表会、さらには卒園式まで、保育園には多くの行事があります。

その都度保育士が、飾り物づくりをしたり、衣装や大道具をつくったりしています。1クラスを担当する正社員の保育士は1〜2人と少ないため、ほぼ一人でクラス全員分の衣装をつくる、ということもざらです。

 

さらには、保育士の出し物を練習したり、隣のクラスとの合同練習のための打ち合わせがあったり、積み重なる準備の多さで、終電ギリギリまで働く保育士も珍しくありません。

終電まで働いて、終わらない仕事は家に持ち帰って眠い目をこすりつつ作業し、早番の出勤に出て行く・・・という日もあります。

とにかく、やることが盛りだくさんなのが、行事前です。

 

しかも、1つの行事をやり遂げたとしても、すぐに次の行事に向けた準備がカレンダーに入ってくるのです。

保育園では、季節を感じられるイベントを通して子どもに季節感を感じてもらったり、日本の伝統的な慣習を伝えていくのは、子どもを育てる保育士として重要な役割だと感じています。そのため、イベントの数を減らしたり、準備に手を抜いたりはできない、という背景があります。

年間を通じて、心身を休める期間は存在しないと思っている保育士が多いはずです。

 

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新卒で就職したばかりのころは「新人なんだからこれくらいやらないと!」と奮起して頑張ってしまいます。

しかし、ちょっと考えてみてください。その仕事の仕方、本当に無理がないものですか?

 

頑張りすぎて無理な仕事のやり方をつづけていると、あるときいきなりしっぺ返しがくる可能性があります。決して無理のないように取り組みましょう。

どうしても仕事がおわらず悩んでいる保育士は、先輩に相談してみるのも良いかもしれません。分担することを考えてくれたり、もっと楽にできる方法を教えてくれることもあります。

 

慌ただしいのが、年度の変わり目

3月末といえば、クラスの締めくくりの時期ですが、同時に次年度の準備も進めていく必要があります。ただでさえ忙しい保育士が、激務に追われ過酷さが増すのが3月ですね。

 

とくに、年長児の担任を受け持つと、一層過酷な状況になります。卒園式の準備にはじまり、小学校に提出するための書類づくり、保護者へのあいさつ、さらには卒園児に渡す記念品までつくります。

乳児クラスとは異なり、基本的に一人で受け持つことになるのが年長児の担任です。担任が複数いるわけではないため、多くの仕事を短い時間ですべて一人だけでやり遂げなくてはなりません。

 

そのうえ、次年度に担当するクラスの準備も加わることから、その激務は想像をはるかに超えたものだといえます。

 

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もはや修行?研修やセミナー

常に勉強を重ねていくことが求められるのが、保育士の仕事です。保育方法は、医療の現場と同じく毎年新しい手法や知識が出てきます。

子どもたちの健康と安全のためには、それらの新しい知識や手法をきちんと身につけておくことが重要なのです。

そのため、研修に参加する機会も少なくありません。研修によっては、園が休みの日を利用して参加したり、平日の勤務時間後に行われたりすることがあります。

 

ある保育士が経験した研修では、金曜日に勤務が終わったあと飛行機で他県に移動し、翌日はその地方の保育園を視察、さらに日曜日は著名な講師のセミナーに参加したあと、また飛行機で地元に戻るという過密日程でした。

もちろん、翌月曜日は通常通り勤務するために、朝早く出勤するというものだったそうです。

 

こんな過酷なスケジュールで研修を行ったとしても、せっかく身に着いた内容も頭から抜けてしまいそうですね。

また、研修に参加する時間は「勤務時間とは認めない」ということで残業代がでない保育園も多いのです。

 

多忙で保育士が失ってしまうもの

ここまで、保育士が置かれている過酷な状況をご紹介してきました。

あまりに忙しい保育士ですから、失うものも少なくありません。実害として、どのようなものがあるのでしょうか。保育士として働くまわりの友人の声も合わせて、ご紹介します。

 

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おしゃれとは無縁になっていく

平日も夜遅くまで勤め、休日も仕事に追われる保育士ですから、美容室で身だしなみを整えたり、ジムなどに行って身体を引き締めたりする時間はありません。

おしゃれがしたいと思っても、時間が取れないばかりか、日々の疲れで体力の余裕もほとんどないでしょう。

 

保育園によっては、行き帰りの通園の服装まで指定されていて、自分の好きな服を着れない!と悩む保育士もいます。たしかに子どもを預かるとなると保護者の信頼が重要ですから、あまり華美な格好や奇抜な服装はふさわしくありません。しかし、「動きやすい服装でないとだめ!」となると、おしゃれが好きな人にとっては辛い状況ですよね。

 

保育士の業務の中では外遊びやお散歩も多く、美容には厳しい環境ばかりです。真夏でも、日焼け止めを塗る間もなくお散歩に出かけなければならない、という日がほとんどです。

結果として、ボサボサの髪型に、ガサガサのお肌という、女性としては大惨事が待っています。

 

保護者の方とお会いする機会もあるので、なるべく身だしなみには気を使うようにしています。しかし、せっかく朝ちゃんとメイクをしても、昼頃にはすでにどろどろ。休み時間も連絡帳などの書き物の作業があるので、お化粧なおしなんて出来ません。

こんな状況なので、メイクをしていきづらいという背景もあるのです。

 

大好きな彼氏と会えない

お付き合いしている彼氏がいる保育士もいますが、あまりに多忙な毎日のため、ゆっくりとデートできる時間は取りにくいものです。

もちろん、土日にデートに誘ってくれる優しい彼氏に対して、行事の後などであれば疲労困憊なので、デートよりも体力回復をえらんでしまいたくなります。そのような理由ですれ違い、別れてしまう保育士が後を絶ちません。

 

また、保育園の近くに住んでいる保育士の場合、近所でデートしていると保護者にばったり会ってしまうので、なかなか外を出歩けない・・・という悩みもあります。

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自分と向き合えなくなる

子どものことを考える毎日、仕事の忙しさにも追われるうちに、自分と向き合う時間を取ることが難しくなっていきます。気を緩められるのは、園のトイレを掃除しているときだけ、ということも珍しくありません。

「これから自分は何をやりたいのか」、「今後も保育士を続けていいのか」など、自分のために意識して考えたい時間も失っていきます。

こうやって、やみくもに働いているうちに心身の不調を着たしてしまうという保育士が、実はとても多いのです。

 

家族と過ごす時間

家族と一緒に暮らしている保育士も多いと思いますが、仕事の忙しさに家族だんらんの時間も奪われていきます。結婚して子育てをしながら保育士を続けている人は、あまりに仕事が忙しいため、肝心の「ママとしての時間」が取れないと嘆く人も多いようです。

 

保育園では子どもたちのケアをしているのに、実際に自分の子どもが体調を崩したときにはそばに付いていてあげることもできない・・・と悩む育児中の保育士もいます。そのため、育休から復帰する保育士が少なくなったり、別の職業に転職していってしまうということがあります。

 

まとめ

以上が、にわかに信じがたい保育士の多忙さを、実例を挙げつつご紹介しました。

多忙な日々は、保育士自身のことを大切にする時間を奪います。

本当にこの苦境を続けていていいのか?転職の準備をしたほうがいいのか?と、ときには自分と向き合う時間をつくっていきたいものです。

「忙しい」からはじまり、「忙しい」で締めるだけの1年と、早々にお別れできるきっかけになるかもしれませんね。