クレームに潰される保育士をなくそう。そのために、保護者が出来ること
すっかり一般的な言葉になってしまったのが、「モンスターペアレント」という言葉。
ある保育園では、毎日一時保育室に10名ほどの子どもが通っています。年間の延べ人数に換算して約2500名、新規で登録する子どもは、年間100名を超えています。
毎日違う子どもがくるような一時保育室では、保護者からの要求やクレームは、多種多様に及びます。
保護者ですから、自分の子どものことが気になるのは当然のことです。しかし、行き過ぎた相談や保育園では対応しきれないような無理な相談をすると「モンスターペアレント」扱いをされてしまうかもしれません。
とはいえ、「モンスターペアレント扱いされたら子どもがかわいそうだから・・・」とわからないこと・もやもやしたことを我慢するのは、保護者の方にとっても子どもにとってもよくありません。
それでは、どのように保育士さん・保育園と信頼関係を築きつつ安心してお任せできるようにしたらよいのでしょうか?
保育士と円満な信頼関係を築くためのマナーとして、保護者の皆様にはご紹介する内容を参考にしていただけると幸いです。
ポイントその1:おむつの交換
意外にこだわりがあるのが、「おむつの交換」ですね。
あるママからは、「おむつを使い過ぎている、3回分吸収できるはずなのに、なぜすぐに交換してもらえるのか、もったいないじゃないか」と指摘されたことがあります。
また、別のママかあらは「お尻がかぶれるから、すぐにでも交換してほしいんですけど」と指摘されたこともあります。
毎日のように子どもが入れ替わるので、すべての子にこまやかな対応するのは難しい状況を、保護者にはなかなか理解していただけないものです。
うちの保育園では、各家庭でおむつを捨てるようにビニール袋を持参してもらっています。それに使用済のおむつを入れ、持ち帰って処分してもらっています。おしっこのときですが、おむつに元々ついているテープを使って丸めます。うんちのときは、小さなビニール袋を重ねるようにして包み、入れるように工夫しています。
とはいえ、「うんちでもおしっこでも、小さなビニールに入れて二重にしてほしい」という要望を受けたケースがありました。
「ビニールに入れること」そのものは、手間に感じるわけではありませんが、「他の子と異なる対応」をすることが、実は手間がかかるのです。このケースでは、小さなビニールを持ってきてもらい、登園したらひとつずつビニールに入れて、交換する度にそのビニールから出してつかうようにしていました。
意外に多いのが、男性保育士がおむつ交換することを嫌がる保護者です。 男性保育士に女児のお尻を拭かれることに抵抗がある保護者の声は、少なからずあるものです。 もちろん、保護者ごとに価値観は違いますから、できるだけ尊重する姿勢が大切とは思います。
しかし、10人いれば10人違う価値観を持っていることも明らかです。個別に対応するのは限界がありますし、やはり難しいと言わざるを得ません。その点を理解して、ギリギリのところでやっている保育士を責めない、精神的にゆとりを持った要望を心がけるのがマナーです。
おむつ替えで良い関係を築くには
おむつのことだけでも、我が家では「あたりまえ!」としていることが、家庭が違うとやり方が大きく異なってきます。 保育士さんは、行政からのガイドラインや、教育カリキュラム内でならった方法にそって保育を行っているので、自分の家庭とやりかたが異なる、というのはよくあることのようです。
何か気になることがあったときには、「どうしてそんなやり方をするんですか!!」とかみつかず、「うちではこうしてるのですが、やりやすい方法はほかにもありますか?」「その方法のほうが、早く交換できるんですか?」など、「質問する」という姿勢で聞いてみましょう。
保育士さんは何十人(ベテランさんであれば何百人!)ものおむつを交換している「おむつ交換のプロ」です。
もしかしたら、自分のやりかたより効率がよくて、赤ちゃんにも気持ちがいいやり方が見つかるかもしれません。
ポイントその2:好き嫌い
食育を兼ねているのが保育園の給食なので、基本的にみんなで同じ給食を食べます。一時保育の子どもたちも、同じ給食を食べます。
しかし、好き嫌いの多い子どもが多く、同時に食べ終わることは困難なことが珍しくありません。 その点を保護者にお伝えするときには、基本的に「食べられたもの」をお伝えします。「食べられなかったもの」については、あまりお伝えしていないところがほとんどでしょう。
せっかくのなので、「食べられたこと」を喜んでもらい、ほめてもらいたいという気持ちの現れです。
しかし、「偏った食事を摂らせたら、保育園に預けている意味がないから、しっかり食べさせてほしい」、「家では食べさせない方針なので、保育園でも食べさせないでほしい」と指摘されることがあります。
一時保育では、いつも自宅で食べているものと違うため、ムリのない範囲で食べさせることを保護者に伝えています。しかし、思うように納得してもらえないことが少なくありません。
また、「家ではお菓子だけ食べているので、ご飯も食べられるようにしてほしい」と要望されることがあります。実際には、家でできないことを一時保育で対応することは、現実的に難しいと言わざるを得ません。
また、好き嫌いというわけではありませんが、特にアレルギーというわけでもないのに、ハッキリした理由もなく「牛乳は避けてほしい」、「玉子は食べさせてほしくない」と不安がる人も少なくありません。
ほかには、「子どもをベジタリアンにしたい。だから肉や魚は食べさせたくない」という要求もありました。 その要求にどこまで応えたらいいのか、保育士は困惑してしまいます。
子どもの成長に必要な栄養素もあるので、栄養に対する深い知識がない人の判断で食べないということは不安があるからです。 また、宗教上の理由ということもあります。これらの判断には、考えさせられることが多いものです。
乳児には哺乳瓶トラブルも多い
赤ちゃんのケースでは、完全母乳で育てている子どもによくあるのが、哺乳瓶を嫌がってしまうことです。
預ける予定があるのであれば、あらかじめ哺乳瓶をつかえるようにトレーニングする、または早く離乳するなどの対策をしておかないと、赤ちゃんが兵糧攻め状態になってしまうこともあります。
食事のトラブルを避けるには
特に食育については、アレルギーなどをもっている子どもさんが増えているので要注意です。
何十人といる子どもの中で万一でも手違いが起こらないように、献立をチェックして毎日の連絡帳や登園のときにお手紙・メモをつけると保育士さんも忘れにくく、円滑にコミュニケーションがとれそうです。
また、好き嫌いについては、「子どもさんの健康を考えてしっかりいろいろなものを食べてほしい!」という思いがある保育士さんばかりですので、アレルギーなのか?苦手なのか?というのをはっきりお伝えしておくのが良さそうです。
保育士さんはアレルギーについての知識も豊富なので、食品以外の相談も出来ると思います。
ポイントその3:名前の文字
たくさんの子どもが入れ替わりながら通っている一時保育室では、できるだけ名前を間違えないように書くように心がけていますが、ときには難しいケースもあります。
たとえば、「斉藤・斎藤・齊藤・齋藤」の違い、 「渡辺・渡邉・渡邊」の違い、 「山崎・山﨑・山嵜」の違い など 、
気を付けていても、間違えてしまうことも少なくありません。
また、最近ではとくに名前の漢字にとても凝っているものが多く、書き間違えるリスクを冒すくらいなら、ひらがなをつかうことも比較的増えてきました。
よく名前を書き間違えられる人は、余計に神経質になっています。だからこそ、丁寧に確認してくれます。 さらに、心を込めてつけた名前を、簡略化してひらがなで書かれるというのは、やはり気分が良くない人も珍しいことではないでしょう。
保育士側も、名前の漢字はとくに間違えないように、慎重に書く姿勢でいます。けれども、それでもやはり名前の漢字は難しいことが多く、完璧を求められるというのは難しいかもしれません。
ポイントその4:保育の方針
異年齢児が一緒になることも多いのが、一時保育の特徴です。 しかし、要望の中には、同年代の子のみと保育してほしいというものがあります。また、一時保育の子のみで保育してほしいという要望も聞かれます。
たとえば、保育園周辺にお散歩に出かけるとしても、一時保育なのにお散歩するんですねと喜んでくれる人もいれば、慣れていない子ども同士を散歩させるのは不安だという声も聞かれます。
また、お昼寝させると夜に寝なくなるから困るという要望、体調のよしあしにかかわらず気候の状況(暑いから・寒いから)によって外出させないでほしいという要望も珍しいことではありません。
保育方針が違うときには、どう対処すればいいか
これらすべての保護者の要望を、漏れなく叶えることは無理だといえます。 保育士の人数が限られているなかで、子どもたちが少しでも安全に、そして楽しんで過ごしてもらえるように悩み、工夫しながら保育をしています。
それを温かく見守っていただければ嬉しいと思っています。
これが、よくあるクレームのなかでも、一時保育でよくあるクレームになります。 もちろん、大切な子どもを預かる保育園です。さらに、一時保育は初めて親元から離れ、他人に預けるという人も意外に少なくありません。
そのために、不安や心配が重なり、クレームにつながると考えられます。
一時保育の側も、いっそう丁寧な対応を心がけていかなければならないと切に思っています。
また、大きな保育方針の違いに悩まないよう、入園前の説明会では、どんな行事やカリキュラムが、どんな保育方針に沿って行われているのか、しっかり確認しておくことが必要です。 あまりにも保育方針がちがうという場合は転園を考えるのも良いかもしれません。
まとめ
保育士さんにとっては、毎日いっしょに過ごしている保護者の方からの情報は、子どもが安全・快適に過ごすための貴重な情報源です。
「これいうと迷惑がられるかな・・・」と気をつかって重要なことを相談しないのは、子どもの安全を守るためにもよくありません。 なんて言って良いか迷ってしまう方は、「自分が子ども10人かかえた大家族だったら・・・?」と想像して相談してみるのが、良い関係を築くコツなのかもしれませんね。
どこの保育園でもやるのかもしれないけど、これってどうして・・・?というものがあれば、もやもやを抱えずにお気軽に保育園に質問していただければと思います。
また、もし育児の方法やお子さんの状態に不安があれば、それも保育士に相談してください。毎日たくさんの子どもと接している保育士であれば、なにかしらお力になることがあるかもしれません。
毎日の子育てで、ママもパパも一生懸命頑張っていることは、保育士から見てもよくわかります。
しかし、周りの大人に精神的な余裕がなかったり、ピリピリした空気を出していたりすると、子どもは大人の予想以上に空気を読むことに敏感で、大人と同じように精神的に追い込まれていきます。
そういうことを止めて、ママもパパも保育士と一緒に、ゆっくりじっくり子どもの成長を楽しんでみてはいかがでしょうか。 幸せな家族は「たのしい」と「あんしん」でつくられているのですから。