保育士、生きろ。

~低賃金・重労働。保育士問題のリアルを追う最新レポート~

「もう保育士辞めたい。」憧れだった保育園の仕事が辛くなったとき

以前にニュースをにぎわせた『保育園落ちた日本死ね』のニュース、みなさんはまだ覚えているでしょうか。

後にその人は、年間所得が960万円以上もある『裕福な家庭』だったと判明しましたが、世の中も変わったものだと感じる方が少なくないと思います。

所得で960万円ですから、いろいろと引かれる前の「額面の収入」では、おそらく1,200万円を超えているのではないでしょうか。報道によっては、「年収960万」ともいわれていましたが、もし「手当額が数千円」というのが本当であれば、「年収1,200万円」となることでしょう。

とはいえ、感情的になりがちなこの話題には、保育業界の本質が隠されているのです。つまり、注目を集めた「日本死ね」ではなく、保育士を取り巻く状況に大きな変化がないということです。

「辞めたい職業No.1」の保育士とは

保育士だけでなく、保護者の方にも知ってほしい この問題、ぜひ保育士だけではなく、子どもをもつ保護者の方にも知っていただきたいなと思います。

保育園で元気いっぱい働いている保育士さんの裏側はこんな風になっているんだ、ということを知っていただきたいのです。

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もしかしたら、自分の子どもが将来保育士になるかもしれません。

もしかしたら、自分の子どもが通っている保育園で、保育士さんがいきなり一斉に退職してしまい、子どもの預かりができなくなるかもしれません。

 

「未来をになう子どもたちを育てる」という思いは、保育士も保護者の方も一緒です。

ぜひ一緒に、この問題に取り組んでいければと思います。

保育園と保育士をめぐる最近の問題の要点は

今回の話のポイントを、整理していきましょう。

  1. ブラック保育園のオーナーには、「補助金目当て」も多く、その国策を手ぐすねを引いて待ち構えている
  2. その実情から、政府の判断も慎重になっている
  3. 「保育園を資産運用の受け皿にしようとする悪い大人」と「政府」の戦いへ
  4. 一方で、現場でがんばる保育士さんの給料は、依然として上がらない
  5. 悪い大人が勝っても、政府が勝っても、現場の保育士は「中抜き」の犠牲になり続ける構図が変わらない

カンタンにではありますが、残念な現状とお先真っ暗な未来が見えるのではないでしょうか。 今回は、現代日本が抱える貧困問題の縮図的な保育業界から、ようやく脱出することができた元保育士さんに、「実際、どうだったの?」と直撃してみました。

その結果、どうなったのかというと…、まずは気楽に読んでいただければと思います。

 

子どものなりたい職業No.1とも呼ばれた保育士

保育園に通う女の子たちにも人気の高い職業、それが保育園の先生ですね。

お母さんが仕事に行っている間も、子どもたちと一緒に過ごしてくれて、楽しく遊んでくれて、歌もピアノも上手な保育園の先生に、大きくなったらなりたいという夢を持つ女の子は珍しくありません。

もちろん、現役の保育士の中には、子どものころに抱いた純粋な気持ちでこの職業を目指した方も多いのではないでしょうか。

 

とはいえ、現実としてその高さが目立つのが、保育士の転職率です。勤めている保育園に残るか転職するか、悩みに悩んだ末に他の保育現場に転職する保育士が後を絶ちません。

「保育園児がなりたい職業」は、どうして「もっとも現場から離れたい職業」になってしまうのでしょうか?元保育士さんの体験談をもとに、保育士が転職への意思を固める原因を探っていきましょう。

 

とにかく給料が安い

ニュースでも話題として取り上げられることが多いため、保育業界ではない方でも知ら れているのが「保育士=給料が安い」ということです。

 

私立保育園の正職員だった元保育士さんの話によると、5年目にして手取りで15万円、これは同年代の OLさんと比較しても5~10万円は低いのではないでしょうか。まだ、首都圏の保育園に勤めていたため、保育士の中でも「マトモ」な方でしょう。

実際に、 同じ私立保育園でも地方では、正職員の保育士であっても手取り13万円弱というケースも多く見られます。 単純に給料だけで考えると、飲食店などのアルバイトで、フルタイムで働いた方が給料が多いかもしれませんね…。

 

重い責任を背負わされる

子どもの命に対して、常に気を配り続ける保育士は、とても重い責任を背負っています。もちろん、保育士1名に対して子ども1名ではなく、同時に複数名の命を 預かっています。

外にお散歩に出かけることになれば、常に子どもたち10名以上が安全にお散歩できるように、車などの危険から守り続けなければなりませ ん。たった5秒でも、子どもたちから目を離してしまうと、重大な事故に遭うこともあり、最悪のケースでは子どもたちが命を落としてしまう危険性さえあるのです。

 

つまり、常に保育士は緊張状態でいることを求められます。一瞬たりとも気を抜くことは許されないため、それが大きなストレスに感じる保育士が少なくありません。

これほど重い責任を背負わされているにもかかわらず、「手取り15万円」という給料は相応しいのでしょうか。

 

女性の職場での人間関係が面倒

最近では、男性保育士も増えてきましたが、依然として保育業界は「女性の職場」です。そのなかで、クリーンな人間関係の職場は、果たして日本中にどれだけあるのでしょうか。

元保育士さんが勤めていた保育園でも、熾烈な「女のバトル」が展開されるのは日常茶飯事だったといいます。距離を取っていても、どうしても「女のバトル」に巻き込まれてしまうため、精神的に擦り切れてしまったそうです。

 

保育現場では「感情」が大切です。そのため、保育士は「公私混同」してしまうことが珍しくありません。

日々の業務の中で、はじめはもっと頑張ってほしいと思って後輩を叱責していたのに、だんだんと高ぶる感情がやがて後輩の人格否定に及んでしまうことも少なくありません。

感情を大切にしている保育現場ですから、どうしても「自分の保育」の否定が、そのまま「自分の人格」の否定に結びついてしまうことが根本的な問題といえます。

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当たり前に求められる「サビ残」

どの業界に勤めていても、ある程度の残業は避けては通れないものではないでしょうか。

しかし、保育士がこなしている残業は、他の業種の人たちからドン引きされるくらい「ブラック」なものです。

 

元保育士さんの話によると、朝は7時から早番のために出勤します。早番の提示は16時ですが、そこで退社できることはなく、翌日の準備から残業を開始し、先輩の手伝いや行事の準備などに追われているうちに、夜22時になっていることも珍しくなかったそうです。

この時点で、その日の労働時間は15時間を超え、 その間は休憩らしい休憩も取れません。もちろん…、であっては困るのですが、残業手当は出ません。

これを月の残業時間に換算すると、平均100時間以上の残業が当たり前になっていました。

そのうえで、休日には平日にできない書類仕事を片づけたり、ミシンをつかう仕事をしたりと、持ち帰り仕事に追われるため、心身を休める時間は取れません。

 

精神的にも追い詰められ、仕事のために生きているの?生きるために仕事するの?と、自分を保てなくなることもあったようです。

 

悩まされる「保護者からの過度な要望」

少子化時代を迎え、我が子を大切に育てようと意識している保護者が増えてきました。

昔と比べて、いい傾向でもあるのですが、その分どうしても大きくなってしまうのが「保育士への過度な要望」です。

 

 

「早く言葉に馴染ませたいので、保育士さんからもっと話しかけてもらえますか?」

「お散歩が好きなので、1日に一度は連れて行ってくれませんか?」

「服が汚れたらかわいそうなので、すぐに着替えさせてもらえますか?」

 

それぞれの保護者から、それぞれの子どもたちに対して、多くの要望を出されます。

もちろん、子どもを思っての発言であり、保育士としてもひとりひとりの子どもに出来る限りのことを与えてあげたい、保護者の方や子どもの喜んだ顔がみたい、というのは同じです。

 

でも、「保護者からの過度な要望」すべてを叶えることは、どうがんばってもムリです!「できる限り気をつけますが…」、「常にできるとはお約束できかねます…」と、保護者にやんわりとお断りを入れるのもまた、保育士のストレスになっていきます。

 

体力的にもハードワーク

保育士にとって、子どもたちと過ごす時間はとても楽しいものです。

しかし、複数の子どもたちから抱っこをせがまれた状態で書類仕事をしたり、子どもたちと全力で鬼ごっこをしたり、体力を消耗する毎日では、体調を崩す保育士も珍しくありません。

 

保育士も人間ですから、身体を動かした分だけ、しっかりと休むことが重要です。

とはいえ、家では持ち帰り仕事に追われる保育士には、のんびりと身体を休める時間が取れないものです。

 

蓄積した疲労でめまいや貧血を起こしてしまい、子どもたちが午睡しているタイミングで近所の病院で点滴を受けに行く保育士もいるようです。点滴を終えたら、残業に戻らなければならないのは、いうまでもありません。

子どもたちの命を守るために、保育士はその命を削っているようなものですね。

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思うように休みが取れない

有給を取得することは、保育士にとって多大なストレスと引き換えになることが珍しくありません。

体調不良でやむを得ないケース以外で、平日に有給を取得することは「基本的にタブー」といわれるのが、保育業界の闇です。有給は「倒れたときに使うもの」であり、有給を消化できずに1年が終われる保育士が、「いい保育士」と いわれるような環境です。

 

もちろん、土曜出勤した場合には振替休日になりますが、他の職員よりも早く退社するときには「申し訳ございません」と深々と頭を下げるのが「職場のマナー」です。

取得する権利がある振替休日であっても、まるで「これから悪いことをしてごめんなさい」という空気で退社しなければならないため、不満に思う保育士は少なくありません。

とはいえ、残念ながら、保育業界では「当然のこと」なのです。

 

まとめ

いかがでしたか?保育士が「もう保育士辞めたい」と口にする背景をご理解いただけたでしょうか。

 

保育士を辞めようか悩んでいる方は、決して無理をしないでください。自分の身体より優先しなければならない仕事はありません。

もし、現状がつらくてもうやめたいと思っているのであれば、思い切って働く環境を変えてみるのも良いでしょう。

今は保育士の職場環境を改善する動きも始まっており、休暇取得の奨励や待遇改善に乗り出している保育園もあります。

ひとりで悩まず、一緒に行動にうつしてみませんか?

 

★職場環境の悩みは、管轄の労働基準監督署にも相談してみましょう。

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