本番は17時から?保育士を悩ませる残業の実情を聞いてほしい
- サービス残業は毎日続く
- 休憩が取れない
- 「残業」のひとつ、持ち帰り仕事
- サービス残業ゆえに「無報酬」
- 慢性的な体調不良
- 可能性が高まる、保育中の事故
- そもそも8時間以内で終わらない保育士の仕事
- 人手不足の深刻化
- 残業する先輩や上司の目が気になる
- 勘違い?「残業=子どもへの愛」
- 残業を避けるには
- まとめ
サービス残業は毎日続く
保育士の残業時間はどれくらいなのでしょうか。一般的には約4時間といわれ、17時半が定時なら、21時過ぎまでの4時間は残業が続くことになります。
しかも、残念なことに、ほとんどの保育園では、4時間の残業は無報酬で行われているのです。つまり、サービス残業が当たり前となっているのです。
法律上、8時間労働を定められているのは、保育士も同じですから、出勤時間は早番、普通版、遅番と分けられています。園のなかには、早朝保育を担当するパートの保育士がいたり、延長保育は時間ごとに保育士を交代しながら担当していたりという勤務体制が組まれていることも少なくありません。
けれども、あくまで「書類上」の措置にしかすぎません。
ほとんどすべての保育士が、定められた「8時間」の勤務ができていないのではないでしょうか。朝の7時に出勤した場合、早番なので本来は夕方16時には退社できることになるのですが、抱えている仕事が片付かず、結局20時過ぎまで残業してしまったというケースは、珍しくありません。
休憩が取れない
保育士に対して、満足な休憩時間を用意していない保育園は、意外に多いといわれています。
書類上は、就業規定として「30分ないし1時間以内の休憩」が定められているはずです。
しかし、実際のところは、子どもたちの連絡帳を書く時間に充てられたり、職員間の打ち合わせの時間につかわれたりすることがほとんどで、休憩を取ることができません。
規定通りに休憩していたら、連絡帳を書く時間が取れず、行事などの準備や練習のための時間も取ることができないのです。
そのため、朝7時に出勤してから、そのまま12時間以上ぶっ通しで働いてしまったという話は、身近でもよくある話なのではないでしょうか。
「残業」のひとつ、持ち帰り仕事
職場だけで完結しないのが、保育士の残業の特徴ではないでしょうか。ほとんどの保育士は、自宅に仕事を持ち帰っています。園ではじっくり取り組めない日案や週案、行事の計画書などの書類や壁面構成をつくったり、翌日の活動でつかう工作やピアノなどの練習をしたり、行事でつかう衣装などをつくったりと、枚挙にいとまがありません。
子どもたちを見ている日中では取り組めない仕事を、家に持ち帰って集中的に取り組んでいるのです。
サービス残業ゆえに「無報酬」
もっとも割に合わないと感じるのは、給与の面ではないでしょうか。
もし、正当に残業代を支払ってもらえたとしたら、定時以降に働いた時間を「サービス」として取り扱わないとしたら…、きっと保育士の月収は手取りでも30万円をゆうに超えるはずです。
それだけ、他業種で残業をしている人と保育士の給料を比較すると、残業代が「無報酬」となることが大きなビハインドになっているのではないでしょうか。
慢性的な体調不良
はじめのうちは問題がなかったとしても、残業が慢性的になってくると、心身への健康被害に悩まされる保育士は後を絶ちません。
なかでも、肩こりや腰痛は、残業が続く保育士の職業病ともいえます。元気に活動する子どもたちを1日中ずっと相手にするわけですから、保育士の仕事は体力勝負な面があります。
身体をつかった分だけ休みたいところですが、保育士は満足な休憩時間も取れず、休日も持ち帰り仕事で忙殺されているため、心身を休める時間的な余裕はありません。
ある保育士は、月に1度のマッサージ治療を受けないと、肩こりで動かせなくなったといいます。
また、身体だけでなく、気持ちを休める時間が取れないのも、避けられない問題です。
子どもの命を預かる保育士は、常に緊張感を持ち続けます。さらに残業が続くため、自分のための時間は失われ、気分転換さえすることができなくなります。
精神的な疲れは、そのまま身体に悪影響を及ぼします。頭痛や生理痛の悪化からはじまり、めまいで動けなくなるケースも少なくありません。さらに、症状が悪化すると心身症を患う可能性さえ出てくるのです。
可能性が高まる、保育中の事故
残業が続いた保育士は、勤務中に眠気や疲れを感じています。保育室にコンディションが良くない保育士が入ることは、想像以上に危険です。
子どもたちの些細な変化を見落としたり、危険を察知できても身体が反応できなかったりする可能性さえ考えられます。外での活動では、周囲の危険に目を配れなければ、子どもたちの命の危険に直結しかねません。
もちろん、疲労感は判断力を低下させます。そのため、効率的に仕事を進められず、残業してしまうことになるという悪循環に陥ることも珍しくありません。
退社時間を早くして、しっかりと心身を休めてから出勤するという習慣は、子どものためになるのはいうまでもありませんが、実は保育士自身のためにもなるので、おろそかにできません。
そもそも8時間以内で終わらない保育士の仕事
保育士ひとりが受け持つ仕事量は、8時間以内に終わらせることができない量なのです。さらに、仕事量だけが原因ではなく、その内容にも注目する必要があります。
たとえば、行事の前には衣装づくりをします。これは、子どもたちの活動に配慮しながら、ミシン作業ができるものでしょうか?クラスによっては複数担任のケースもあり、一人が子どもを見ている間にもうひとりがミシン作業をするというような、チームワークで保育と雑務や書類作成などを同時進行できる場合もあります。
とはいえ、体調を崩した子どもが出てしまったら…、ケンカでケガをしてしまったら…、もちろんミシン作業を続けられる状況ではなくなります。
そのため、17時以降に子どもたちが帰った後、保育士は書類作成をはじめたり、行事の準備に手を付けたりできるのです。カンタンにいえば、17時以降が「自分の仕事の開始」となっているのです。
人手不足の深刻化
人手不足が深刻化している問題は、最近のニュースを騒がせています。あまりに労働条件が過酷なため、年度の途中であっても退職する職員が後を絶ちません。
人手が不足するということは、そのまま他の保育士の仕事量が増えていくことを意味しています。増えた仕事に対応するために、残業やむなしという状況に陥る保育士が非常に多いのです。
残業する先輩や上司の目が気になる
保育士の残業が続く背景として、心理的な問題があることも忘れてはいけません。保育園は「女の職場」、そのため人間関係に慎重にならざるを得ない保育士は多いのではないでしょうか。上司や先輩が残業しているなかで、ひとりだけ早く退社することで自分の立場が悪くなると考えてしまう傾向があります。
園の環境によっては、通院のために定時で帰ろうとする保育士に対して、さすがに引き留めさえしないものの、怖い視線を浴びせられます。さらに通院が続くようであれば、「また定時上がり?他の職員は残業しているのに、保育士としての自覚が足りないんじゃないの?」と嫌味を言われてしまうこともあるのです。
また、多くの仕事を抱えている先輩がいれば、自分の仕事を後回しにしてでも先輩の手伝いを優先しなければならない…、という「恐怖の不文律」がはびこっている保育園もあるようです。
良い園であれば、後輩が定時で帰れるように、仕事量を調整してあげられるように上司や先輩が配慮しています。
勘違い?「残業=子どもへの愛」
毎日子どもたちに担任としてかかわっていると、自分の子どものようにかわいく思える保育士はたくさんいます。とはいえ、それが皮肉なことに、保育士が残業する原因のひとつになっているのです。
自分の時間を削る持ち帰り仕事は、「子どもたちのためだから構わない!」というスタンスの保育士は少なからずいます。けれども、それが園内で当然だと広まってしまうと、「子どもたちのために残業している先生がいるのに、私は残業していないからいい先生ではないかもしれない…」という強迫観念に襲われてしまいます。
ハッキリ言えば、「残業=子どもたちへの愛」ではないのです。子どもたちに元気な姿で向き合い、一人ひとりの子どもにじっくりと愛情を注いでいくためには、過剰な残業は避けるべきなのは言うまでもありません。
残業を避けるには
ここまで、保育士に課せられている過酷な残業の内容をご紹介してきました。そうそう、と同感してくださる保育士も多いのではないでしょうか?
しかし、誰だって残業はしたくないもの。残業なしで、定時に退社出来る方法はないのでしょうか?ここからは、残業をなくす方法を考えてみましょう。
「私は私!」先輩は同僚の目を気にしない
まずは、自分の仕事を勤務時間内に完了できるようにすることが大切です。上司や先輩の目が気になってしまいますが、それを理由に残業を続けていると体調を壊します。結果として、子どもたちや園に迷惑をかけてしまうことにつながります。
そうならないためには、自分の仕事に自信を持ちましょう。ちゃんと仕事をしていることを、上司や先輩にアピールすることも忘れてはいけません。誠実な仕事ぶりに、あなたへの信頼感が増え、多少の早帰りを許してもらえるケースもあるでしょう。
「やりたいこと」ではなく、「終わらせること」を優先
次の行事では可愛い衣装にしたい、だからレースは二枚重ねで、壁面は新しくしようかな…、と「やりたいこと」を先に考えてしまう傾向があるのではないでしょうか。
けれども、それを考える前に、どうやったら8時間の業務時間内に終わらせることができるかを考えてみることが大切です。
多忙な保育士を上手に続けていくためには、適度に楽をするポイントを押さえる必要があります。たとえば、昨年と同じ時期につかった壁面にほんの少しアレンジを入れてつかってみるとか、衣装づくりではミシンがいらない素材でつくってみるとか、工夫できるポイントがあります。
このような小さな工夫の積み重ねで、残業時間を減らしていけるのではないでしょうか。
「週に○回、○時間まで」、残業に制限を
現実的に残業をいきなりゼロにするのは難しいかもしれませんが、その時間を減らしていくことはできます。
「何時間でも残業していいんだ」という思考になっている人は、すでに毎日の残業が癖になっている人ではないでしょうか。
けれども、「週に○日、○時間まで」と意識すること、「○時までに終わらせよう」と目標を決めてから仕事をすることが効果的です。また、○曜日はノー残業デーとして、自分のなかで決めておくこともいいでしょう。
残業で限界を超えそうになったら、ムリをしない
これが基本です。
ここまで、保育士の多くが苦しんでいる残業について、実情と原因、さらには解決策について見てきましたが、複雑な事情が絡んでいるため、今日明日での解決が難しいケースもあるでしょう。
深刻な体調不良に苛まれる前に、「転職」という選択肢を頭に入れておきましょう。過酷な残業を続けたために、保育現場に復帰できなくなったら、元も子もありませんね。だからこそ、自分の心身の健康は、自分が守る意識をもつことが大切です。
ムリなく勤められる保育園探しも、すぐに始められる解決策のひとつです。
まとめ
今回はたくさん保育士の残業問題をご紹介してきました。なぜこんなにたくさん取り上げるの?と思ってらっしゃる方もいると思います。
でも、保育士の残業問題とは、それほど根が深く、困っている人も多い問題なのです。
今、保育士の人手不足解消のためにお給料をあげる政策などが話しあわれていますが、個人的には「お給料だけじゃなくて残業もなくならないと、保育士は絶対増えない」と思っています。
もちろん、保育士の人手不足が解消したらなおるよ!という鶏が先か卵が先か、という問題もあると思います。でも、保育士たちは「今まさに」苦しんでいるんですよね。給料以外の待遇も改善されることを願っています。